言偏の断片

 

 とある小児病棟の一室。ベッドには男の子がひとり。看護師は少年に笑いかけた。

「こんにちは」

「こんにちは」

 彼の声はしっかりとしていた。

「何してるの?」

 彼は先程から熱心に何かをかいている。

「寺をかいているんだ」

「好きなの?」

「うん」

 変わった絵を描くのだなと彼女は感心した。

「絵、得意?」

「ううん」

 彼女はノートを覗き込んだ。書かれていたのは文字だけだった。

「友達はいる?」

「友達は舌がすごく面白いんだ」

 彼女は病院を出て呟いた。

「何かが抜けているな」



(二二〇字)





五百字小説トップニモドル