とある美食家の独白

 

 甘味といえば野苺である。

 甘すぎてもいけない。酸味と甘みが七対三の割合で混ざり合っているものこそが至高である。それに獲れたての蜂蜜をたらりとかけるのもまた良い。苺の薫り高い風味と、ただ甘いだけではなく深みのある、蜂蜜の独特の甘さが舌の上で三拍子の優雅なワルツを踊る。

 魚といえば鮭である。

 朝焼けのような美しいピンクが目を楽しませる。

 口に入れ、咀嚼するたびに鮭独特のさっぱりとした脂が舌を優しく撫でる。その様は伸びやかなラジオ体操のようである。

 本当に美味い鮭は皮まで美味い。皮ごと豪快にかぶりつくのが通の食し方である。

 注意すべきは鮮度である。必ず獲れたてでなくてはならない。鮮度の落ちたそれを食すことは、腐った鹿肉をそれと分かって食すのと同じくらい愚かなことである。

 欲望のままに、美味くもない動物を目の前にいるからという理由で食す輩がいる。人間の肉は酸っぱくていけない。あんなものを食す輩は、熊として終わっている。




(四〇四字)





五百字小説トップニモドル