ラベンダーと月

 

 夜中に目が覚めた。

 眠ろうとする程に眠れなくなる時がある。それが今である。私は仕方なく起き上がり、リビング・ダイニングへ降りた。

 キッチンへ向かい、ラベンダーの豊かな香りのするハーブティーを入れた。上品な薄い青紫をしたそれは、ラベンダー独特の甘い芳香を放っている。

 柔らかいソファに深く腰掛け、静かに黄金色の蜂蜜をマグカップの中へ落とし込みながら、私は思考した。

 ここ数ヶ月、眠れない日々が続いていた。しかし生活に問題はない。

 ふと窓の外に目をやる。ラベンダー色の湯気の向こうに、大きな蜂蜜色の月が輝いている。その姿は融けかけの雪のように儚げであり、古い仏像のように神々しくもあった。

 いっそあの月のように、夜眠るということを忘れてしまえばよいのだろうか。眠るという誰にでもできるはずの行為を私ができなくなったのはなぜだろうか———

 目覚まし時計がけたたましく鳴っている。私は手探りでその音を止める。またあの夢だ。何がいっそあの月のようにだ。私はこうして眠れているではないか。これは何かのメッセージか。太陽が私を拒絶するのか、月が私を引き入れようとするのか、それともただの願望か。妄想もいい加減にしていただきたい。




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